ラグビーワールドカップ、日本人の心に刺さる“ノーサイド”の精神

このエントリーをはてなブックマークに追加
エンターバンクが編集・執筆した「横浜ラグビーWalker」。横浜の主要駅、ファンゾーン等で無料配布中

日本代表がワールドカップで初のベスト8に進出し、日本中が喚起に沸いている

レスラーのような屈強な男たちが正面からぶつかりボールを奪い合う。ラインアウトのボールを少しでも高い位置で取ろうとチアリーディングのようなリフトを見せる。攻め込むときのボール回しは、まるで手品を見ているようだ。あれよあれよという間にパスがつながり、一瞬誰がボールを持っているのかわからなくなる。スピード型の選手が見事な切り替えしで相手ディフェンスの間を抜けていけば自然と歓声が出るし、スクラムを見ているとつい力が入り唸ってしまう。ゴールキックの時は時間が止まったかのように息をするのを忘れている自分がいる。

「ラグビーって、サッカーより面白いかもしれない」

最近私の周辺でよく聞かれる会話だ。これまでラグビーに興味を持つこともなく、ルールもろくに知らなかった私だが、今回のラグビーワールドカップ日本大会を見て、まったく同じ感想を抱いている。特に日本代表が初のベスト8に進出し、日本中が喚起に沸いている。私のようなにわかファンは急増していることだろう。

もちろん競技は面白い。しかし多くの日本人は、ラグビーというスポーツが持つ精神性にも惹かれているのではないだろうか。

ノーサイドの精神は、武士道に通じるものがある

「ノーサイドの精神」。「ノーサイド」は、ラグビーの試合終了を指す言葉で、その瞬間、敵と味方の垣根がなくなることを意味する。スポーツは対戦相手がいて初めて成り立つことから、相手への敬意を重んじるという精神。どこか日本の武士道にも通ずるようにも感じられる。

武士道には義・勇・仁・礼・誠・名誉・忠義という7つの基本理念があるが、ラグビーには「ラグビー憲章」というものが存在する。

<ラグビー憲章>

WORLD RUGBY「競技規則」より
・品位(INTEGRITY) ・情熱(PASSION) ・規律(DISCIPLINE)
・結束(SOLIDARITY) ・尊重(RESPECT)

荒々しいイメージとは違った、気品ある言葉が並ぶ。ラグビーでは、指導者はまずこのラグビー憲章について徹底的に教え込むという話を聞いたことがある。身体を激しくぶつけ合い、ケガをも辞さず一つのボールを奪い合う。球技の中でおそらく最も過激で危険なスポーツの一つがラグビーだが、それほど危険なスポーツだからこそ、品位や規律、リスペクトの重要を説いているのだろう。

日本の初戦となった9/20、30-10で勝利したロシア戦。その試合後、日本の主将リーチ マイケルがロシアのロッカーを訪問し、互いをたたえ合った。また当時世界ランク2位の格上アイルランドに勝利を収めた日本代表2戦目では、試合終了後に日本代表に敬意を表してアイルランド代表が花道を作ったことが話題になった。

日本の試合に限ったことではなく、今回のワールドカップを見ていても、試合終了と同時に、互いをたたえあう選手やファンの姿を何度も見てきた。ラグビーには全般を通して「ノーサイドの精神」が流れているのだ。その気持ちには、武士道のDNAを持つ多くの日本人が共感するのではないだろうか

世界が驚く日本の「おもてなし力」の根底も実はノーサイド精神?

一方で日本の「おもてなし力」も話題となっている。大会3連覇を狙うニュージーランド代表のオールブラックスが、キャンプ地である千葉県の柏市で地元の子どもたちによる「ハカ」のパフォーマンスで熱烈な歓迎を受けた。その模様の動画がツイッター公開されるや、瞬く間に世界中に広がり180万回再生を突破した。また9/22に横浜の日産スタジアムで行われたアイルランド対スコットランド戦で、大会公式インスタグラムが、試合前の国歌斉唱で、英語の歌詞カードを持ってアイルランドのアンセム「Ireland’s Call」を歌う日本人の姿を公開。SNS上では「日本のおもてなしは一流」と絶賛の言葉が相次いだ。

私はもちろん日本代表を応援しているし、日本が勝てばうれしい。しかしせっかくの日本開催のワールドカップなのだから、世界最高峰の試合を見たいとも思っている。だからこそ、すべての代表にベストコンディションでピッチに立ってほしい。「敵チームだから」とか、「国が違うから」といった負の感情はそこにはない。「いい試合が見たい」「今この瞬間を楽しみたい」。おそらく日本各地で代表チームを受け入れている自治体関係の人、スタジアムで応援するファンも同じ気持ちなのではないか。

日本のこういった姿勢が特別なのか、ラグビーの世界では当たり前のことなのか、にわかの私にはわからない。しかし、日本人がラグビーをリスペクトしているという気持ちは、確実に届いていることはわかる。今大会では、試合後に両チームの選手が観客席に向かって日本式のお辞儀をしていると聞く。また台風19号の影響で、釜石で予定されていたナミビア対カナダの試合が中止になったが、被害の一報を聞いたカナダ代表選手が、翌日市内で清掃活動を実施したという感動的なニュースもあった。参加国の代表チームも日本への敬意を精一杯、形として表そうとしてくれているのだ。

ラグビーというスポーツを、一時のブームに終わらせないために

野球、サッカー、バレーボール。これまで日本では数多くのスポーツの世界大会が開催されてきた。そのたびに盛り上がるのだが、それは一時的で終息も早かった。世界大会には注目しても、国内のリーグ戦が盛り上がるまではなかなかいかない。熱しやすく冷めやすい。それがスポ―ツに対する日本人の自己評価だ。

しかしラグビーはどうだろうか。スポーツとしての面白さだけではなく、日本人として受け入れやすい“ノーサイド”の精神がある。メディア側がきちんとのラグビートップリーグの情報を伝え、試合の面白さだけでなく、その裏にあるドラマにまで着目できたなら、ラグビー熱が急激に覚めていくなどということはないのではないだろうか。

中にはスコットランド協会の舌禍問題やウルグアイの一部選手による泥酔事件など、残念な出来事もあったが、大会そのものは概ね爽やかで、感動的なエピソードに包まれている。何より日本代表が快進撃を続け、ベスト8にまで残っている。少なくともここまでは、運営的にもビジネス的にも成功と言えるだろう。気の早い関係者は、「20年後にまた」と期待を寄せているという。

しかしまだ、ラグビーワールドカップ2019日本大会は終わっていない。週末からいよいよ決勝トーナメントが始まる。いったいどんな素晴らしい試合を見せてもらえるのか。どんな感動的なドラマが生まれるのか、楽しみでならない。

文=エンターバンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です