働き方改革の本命、テレワークは果たして定着するのか?

テレワークという働き方が注目されて数年経つが、では自分の周囲で活用している人間がいるかとなると、案外少ないのではないだろうか。これにはいくつか理由が考えられるが、その前にまず、テレワークについて少し説明しておこう。

テレワーク環境があっても、7割が全く利用できていない現実

テレワークとは、ICT(情報通信技術=Information and Communication Technology)を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことで、自宅で作業をする「在宅勤務」、顧客先や移動中にパソコンや携帯電話を使って働く「モバイルワーク」、勤務先以外のオフィススペースを利用する「サテライトオフィス勤務」と、働く場所によって3つの形態に分けられる。政府が目指す一億総活躍社会といった社会問題の解決手段としても期待されていたり、来年のTOKYO 2020 オリンピック・パラリンピックで都心に集中する交通混雑を緩和するための施策としても注目されている。

しかしこれらの期待とは裏腹に、決して定着しているわけではない。ワークスイッチコンサルティングが7月に発表した「首都圏ビジネスパーソンの通勤とテレワークに関する実態調査」によると、「制度が導入されている」「制度はなくても実際テレワークできる状態にある」が、400人中145人と一定数いる反面、その145人に週のうち何日テレワーク勤務をしているかを聞いてみると、週0日が105人もいるのだ。これにはいろいろな理由が考えられる。

テレワークが定着しないのは「雰囲気」だけの問題ではない?

同実態調査では、「利用しやすい雰囲気づくり」「上司の理解」に原因があるとのではないかと指摘している。確かに日本では決められたオフィスに朝早くから出社して、夜遅くまで仕事をすることが良しとされてきた。上司が残業しているのに自分だけ定時に帰るのは気が引けるし、出社せずに仕事をするなんてなおさら気まずい。会社側でせっかく制度を用意しても、上司をはじめとする周囲の理解がないと利用しづらいのは当然のことだ。中でも50代以上の管理職は、新しい職務制度になかなかなじめず、“抵抗勢力”的な存在として扱われているという。テレワーク定着のためには、まず彼らの意識改革が求められているのだ。

この説は確かに納得できるものだ。しかし私にはどうも原因はそれだけではないように思えてならない。まず業種の問題。テレワークは基本的に一人で行うものだ。もちろんプロジェクト化して、インターネットを通してコミュニケーションを取りながら進めていくのだが、基本は在宅で作業するイメージが強い。IT系のエンジニアやアナリスト、デザイナー、ライター業などはテレワークとの親和は高いだろう。しかし在宅でできる仕事は実際には限られている。工場のラインや建築現場の作業、実店舗の勤務などは、その場所へ行かなければ仕事にならない。

テレワークは「出来上がったビジネスパーソン」にとって有効な制度

テレワーカー同士でプロジェクト化した業務は実際にあるが、ネット上で複数人がバラバラにコミュニケーションを取るより、同じフロアに集まった方が作業効率はいいということも多い。日本テレワーク協会客員研究員の椎葉怜子氏は、テレワークを定着させるポイントとして、「出社時と同等、またはそれ以上の生産性を保てること」だと指摘している。「出社時よりも生産性が向上する」としてしまうとハードルが上がりすぎてしまうのだという。つまりテレワークそのものは、現状では直接的な生産性向上を目的としたものではないということだ。どちらかといえば、働き手に時間の余裕ができて幸福度が上がるのであれば当面はよしとする。しかし企業であるからには当然、生産性は向上したい。こうなるともう会社がどう考えるかという問題になってくる。

そして私が最も定着しにくい理由と考えているのが、テレワークは「出来上がったビジネスパーソン」にとって有効な制度だということだ。テレワークは空間的に精神的にも一人で作業をする。周囲に頼れる人間がいないわけだから、確かな技術力と解決力、そして判断力が求められるのだ。まだ仕事を覚えていない新人や経験の浅い社員では、対応できないシーンに直面することも多いだろう。そこでいちいちメールで上司にお伺いを立てるくらいなら、最初から上司の隣の席で仕事をする方がいい。そしてそんな若手たちに仕事を教える立場の人間が、テレワークで会社にいないという状況も避けたいはずなのだ。

テレワークはワーカーが、状況によって選択できる働き方

私は「だからテレワークは定着しない」と言いたいわけではない。テレワークに向いている職業は確実にあるし、テレワークによる生産性向上はまだ途上段階であって、今後上昇していく可能性のほうが高い。若手教育などは、会社の制度次第でどうにでもできる。

今年に入って、ある知人の会社がフリーアドレス制となり、テレワークを推奨しはじめたという。面白いなと思ったのが、その知人が「会社に来てはいけない」という意識を強く持っていたことだ。「制度があるから使わなくてはいけない」という強迫観念のようなものがあるのだ。案外こういう人は多いのかもしれないと感じた。

テレワークは「使わなくてはいけないもの」ではなく、「使ってもいい権利」だ。たとえば今年の夏は猛暑が多く、熱中症で倒れる人のニュースが多かった。また関東地方を夜半に台風が直撃して、交通網がマヒしたこともあった。私の自宅の最寄り駅では、改札に入るために、駅前の商店街を縦断するほどの行列ができた。果たしてそこまでして会社に行かなければいけないのか。

私はテレワークは定着すべきだと思っている。「子どもが熱を出したから」「明日は大雨らしいから」。そんな理由でいい。状況によって自宅で作業することが選択できると考えると、ずいぶんと心のハードルは下がるのではないだろうか。