横浜DeNAベイスターズ、スタートダッシュ成功の裏にある“担当制”キャッチャーという試み

20年の春キャンプより。戸柱、伊藤光、嶺井、山本の姿が見える

先発投手の防御率1.95!開幕3カードを6勝3敗の好発進

横浜DeNAベイスターズが開幕からの9連戦を6勝3敗で終えた。開幕戦となった6/19の広島戦で、大瀬良に4安打完投の黒星発進も、3戦目で宮﨑の劇的なサヨナラ打で勝利をもぎ取ると、その後中日を3タテ。続く阪神との初戦も勝利し5連勝。2戦目は守護神・山﨑が、阪神の新外国人サンズに3ランを被弾し落としたが、翌日にはキッチリ9-1と快勝している。

好調の要因として最も大きいのは投手陣の活躍。先発投手が粘って5~6回までしっかり試合をつくっていることだ。ここまでの先発投手の防御率は1.95。6/27中日戦に先発したピープルズの5回5失点を除く8試合で、5回以上を2失点以内に抑えている。しかし今回は、先発投手の力を引き出しているキャッチャー陣に注目したい。

正捕手を固定しない、異色の「捕手担当制」

今永、ピープルズ、井納には伊藤光。平良、坂本には戸柱。そして濵口には髙城。去年は伊藤光を正捕手として据えていたラミレス監督だが、ここまでは投手との相性によってキャッチャーを変えていく戦略のようだ。総合力の伊藤光、キャッチングの戸柱、濵口が安心して腕を振れる髙城。そしてもう一人、守護神・山﨑と亜細亜大学時代からバッテリーを組む嶺井。

■「獲れるタイトルは全部獲る」総合力で勝るベテラン捕手
伊藤 光

19年成績●84試合 打率.254 8本塁打 27打点

プロ入り12年目の伊藤光はオリックス時代の14年にベストナイン、ゴールデングラブ、最優秀バッテリーと、キャッチャーとして獲れるタイトルをすべて獲得。経験、技術、打撃と、総合力ではNo.1。DeNA1年目は途中加入。2年目の昨年はケガで長期離脱してしまったが、自己最多の8本塁打と打撃でも存在感を発揮。今年は14年に獲得したタイトルを「もう一度狙う」と、高いモチベーションでシーズンイン。取材した印象では、常に周囲の選手を観察しているように感じた。年齢的にも実績のある投手との組み合わせがハマるだろう。

■MLB関係者絶賛のキャッチングで技巧派投手を援護
戸柱恭孝

●19年成績●45試合 打率.200 1本塁打 6打点

今年の春季キャンプを訪れていたメジャー関係者が、戸柱のキャッチングを見て絶賛したという記事があった。戸柱は入団1年目から“フレーミング”と呼ばれる技術に長けていた。フレーミングとは、ストライクゾーンギリギリの際どいボールを、ミットさばきによってストライク判定にする技術のこと。現役時代のヤクルト古田が得意としていたことでも有名だ。新人時代に取材させてもらった時、キャッチングの上手さに言及すると、「本当ですか?本当にそう思いますか?」と笑顔で喜ぶ姿が印象に残っている。コントロールで勝負するタイプの投手には心強い存在だ。

■ハマちゃんの力を最大限引き出す専属捕手
髙城俊人

19年成績●5試合 打率.182 0本塁打 0打点
移籍前の16年に撮影したため、当時の背番号32になっているが、現在は36番を背負う

髙城は、18年途中に伊藤光とのトレードで、一度はオリックスに移籍。昨年自由契約となったところを、DeNAが声をかけ再入団となった。というのも移籍前の17年、濵口の登板日限定で先発マスクを被り、新人だった濵口に二ケタ勝利をもたらしたからだ。当時の濵口が「髙城さんが、“絶対に止めるから思い切り腕を振ってこい”と言ってくださったから、あのチェンジアップが投げられる」と語っていたことが思い出される。今季も濵口限定の起用になると思うが、ここ2年本来の力を発揮できていない濵口にとって、 頼りになるアニキ分が帰ってきたことは明るい材料。心機一転のシーズンにしたい。

■チームメイトから愛される“ハマの仏様”
嶺井博希

19年成績●64試合 打率.211 2本塁打 12打点

嶺井は投手に限らずチームメイトの誰からも好かれる存在。以前桑原が嶺井の人の良さを「年下の僕が全力でぶん殴っても怒らないと思う」と評したことがある。そのことを本人伝えると「怒らないです。それよりも何で殴られたのかを考えちゃいます」と、超お人好しな答えが返ってきた。彼を嫌うチームメイトはまずいないだろう。当初は「ピッチャーが投げたい球を、気持ちよく投げてもらう」という、投手に気を使う傾向があったリード面も、昨年取材した時には「勝つためには、投手にも多少のガマンはしてもらう」と変化してきた。今シーズンはすでに4試合に出場(6/29現在)。まだ先発マスクはないが、誰とでも組めるのは強みといっていい。

今シーズンは捕手陣の活躍に注目!

トータルでは伊藤光が頭一つ抜けているのは確かだが、四者四様の個性が光る。「優勝するチームには、必ずいいキャッチャーがいる」という、故・野村克也氏の言葉がある。確かにこれまではそうだった。キャッチャーとしては、受ける投手が限られるのは、悪いように思われるかもしれないが、逆に言えば、バッテリーとして、より深いコミュニケーションが取れるということ。普通に考えれば正捕手固定が理想だが、飛び抜けたキャッチャーが不在のチーム状況としては、このスタイルは正解かもしれない。そしてそれを証明するには、やはりリーグ優勝しかない。

3か月遅れで始まった20年シーズン。先発投手や破壊力抜群の打撃陣以外にもキャッチャー陣にも注目すべき部分がある。まだ始まったばかりだが、例年になく見どころが詰まったシーズンになりそうだ。

エンターバンク 小貫正貴

横浜DeNAベイスターズ、筒香のあとを継ぐ者たち

横浜DeNAベイスターズ、筒香嘉智のあとを継ぐ者たち

プロ野球12球団が一斉にキャンプインした。

実績のある選手は自分のペースで仕上げていくことが許されるが、レギュラーや一軍定着を狙う若手選手にとっては、またとないアピールの場。自主トレでしっかりと身体を作り込み、キャンプ初日から監督やコーチの目に留まるべく、積極的な姿勢を見せなければいけない。

首脳陣にとっても、戦力バランスを見極め、シーズンを通しての戦い方をシミューレトする大事な時期。なかでも横浜DeNAベイスターズ(以下、ベイスターズ)は大きな課題を抱えている。

それは「ポスト筒香嘉智」

DeNAになってからのベイスターズは、誰もが認める筒香のチームだった。昨年オフ、ポスティングによりタンパベイ・レイズへ移籍した筒香の穴を、果たして誰が埋めるのか? ファンも野球解説者も、今季のベイスターズキャンプでもっとも注目するポイントだ。

2019年のドラフトで、ベイスターズは地元神奈川県・桐蔭学園の森敬斗選手を1位指名。2009年の筒香以来の高校生野手の1位指名となった

秋のドラフトで指名されたのは、即戦力でも長距離砲でもなかった

2019年のドラフト会議で、横浜DeNAベイスターズが1位指名したのは、地元神奈川県、桐蔭学園の遊撃手、森敬斗だった。

意外だった。この時点でまだは決まってはいなかったものの、筒香のメジャー移籍は規定路線だった。だから野手を1位指名するのであれば、大砲候補を指名すると思っていたのだ。

それが俊足好打の内野手。確かにここ数年のベイスターズの課題に、「二遊間の固定」がある。昨年は主に大和が遊撃、ソトが二塁を守ることが多かったが、大和は打撃に物足りなさを、ソトは守備面で不安を抱えており、レギュラーポジションと言えるものではなかった。

昨年は打撃力のあるソトと、守備力の高い柴田がおもにセカンドを守った

昨年のドラフトでは、報徳の学園の遊撃手、小園海斗を指名し広島と競合。結果クジをはずしている。だから二遊間を守れる素材型の野手が欲しいことはわかる。しかし「筒香の穴」を埋めるという意味では、一瞬疑問符が付いたのは確かだ。


しかしすぐに思い直した。まず現在のベイスターズには、30本塁打以上を期待できる打者が3人もいるのだ。2年連続ホームラン王のソト、6年連続25本以上のロペス、昨年はケガで114試合15本に終わったものの、2018年に28本塁打を放った宮崎敏郎。全員が右打者という部分は気になるが、これだけ打てる打者が揃っているのなら、なにも無理して大砲を獲る必要はない。

パワーだけでなく、バッティング技術は球界でも随一。今年は3割30本が期待される宮﨑

大砲候補は、すでにここにいる

しかも若手の中には、昨年11試合で4番に座った新キャプテンの佐野、チーム一番の怪力、細川、新人ながら21試合で4本塁打を放った伊藤裕季也など、ブレイクが期待される大砲候補もたくさんいる。さらにに言えば新外国人選手の補強だって怠っていない。

チーム随一の飛ばし屋、細川成也選手。その飛距離に田代コーチも驚きを隠さなかった

数字の部分では実績ある選手。期待値の部分では成長著しい若き大砲候補たち。彼ら一人ひとりが「ポスト筒香」を形成するピースなのだ。

そう考えると、昨年のベイスターズのドラフト戦略はうなづけるものだ。

森は、強肩と広い守備範囲がウリの遊撃手。粗削りながら思いきりのよい打撃と、50m5秒8の脚力も持っている。桐蔭学園時代は主将を務め、凡ミスした選手を叱咤するなどリーダーシップも持ち合わせている。そして何よりまだ18歳と伸びしろも十分だ。

2020年は佐野がキャプテンを務めるが、その前までは筒香が5年間、さらにその前は石川雄洋が3年間務めている。どちらも地元横浜高校出身の高卒野手。筒香は23歳と、歴代最小年齢での就任だった。つまりベスターズは、5年後にチームの中心にいて、キャプテンを任せられる人材を獲得したといっていい。そういう意味では、森もポスト筒香の一人といっていいだろう。

筒香からキャプテンを引き継いだ佐野。本来は内野手だが、出場機会を求めて外野にも挑戦。広陵高3年から明大3年途中までは捕手も経験している

ポスト筒香は一人ではない。そもそも筒香の代りは存在しない

昨年末、ポスト筒香について、ラミレス監督に話を聞いたとき「選手として、キャプテンとして、彼は特別な存在だった。誰も彼の代わりを務めることはできない」と言っていた。つまりベイスターズはポスト筒香を、現在の主力、成長中の若手、期待の新人選手らで分担させようとしているのだ。

筒香に代わる選手を探すのではなく、選手一人ひとりが、それぞれの個性でカバーしていく。とても健全な取り組みだと思う。

「 (筒香に代わる)ベストな選手はいないが、みんなで補えばいいチームになる 」とラミレス監督

DeNAになってから、今年で9回目のシーズン。 ベイスターズは、若返り に成功し、DeNA以前から在籍する選手は、石川雄洋、梶谷隆幸、国吉祐樹ら数えるほどになってきた。

現在のメンバーは実に個性派ぞろいだ。今後は筒香とはまた違ったタイプの中心選手が生まれてくるだろう。ひょっとしたらここで名前を挙げなかった選手が台頭してくるかもしれない。なんだかワクワクしてくる。さらに楽しくキャンプを見ることができそうだ。

文=小貫正貴

メジャーに挑戦する筒香嘉智選手。記者会見を見ていたら4年前のインタビューを思い出した

横浜DeNAベイスターズの筒香嘉智選手が、ポスティングシステムによるメジャー挑戦を正式に表明した。10/29に行われた記者会見では、ファンへの感謝の気持ちを真っ先に伝えたあとは、質疑応答では聞かれたことに淡々と答えるのみで、リップサービス的な発言はほとんど見られなかった。慎重に言葉を選び、わからないことはわからないと言う。そんな会見の模様を見ながら、筒香選手に初めてインタビューした時のことを思い出していた。

キャプテン就任1年目のその男は恐ろしく無口だった

横浜ウォーカー2015年4月号より

横浜ウォーカーのライターとして、筒香選手に初めてインタビューしたのは、2015年の2月。沖縄・宜野湾キャンプが始まった頃だった。プロ野球の開幕直前に発売される横浜ウォーカー4月号で、初めて横浜DeNAベイスターズの大特集を組むことになったのだ。筒香選手は前年の2014年に打率.300、22本塁打、77打点とブレイク。中畑清監督からキャプテンに任命されて臨む、初めてのシーズンだった。

こちらとしては当然、前年の好成績について、そして弱冠23歳の若きキャプテンとして、威勢のいい言葉を引き出したい。しかし筒香選手の口はとても重かった。確かに事前に周囲から仕入れた情報では、どちらかといえば話をするのは苦手ということだった。しかしこれほどまでとは思わなかった。シーズンへの意気込みを聞くと「まずレギュラーになることが目標」と、目を合わせることなく、小さな声でうつむき加減に答える。新キャプテンとしての意気込みには「意識せずに、選手として自分のやるべきことをやる」。一流打者の証、3割30本100打点という数字を向けてみても「全試合、全力プレーを大事にしたい」としか語らない。

威勢のいい言葉を引き出したい記者と、リップサービスしない筒香嘉智

横浜ウォーカー2015年4月号の表紙。巻頭特集がベイスターズ、第1特集が「地元有名人のグルメ決定版」だった

横浜ウォーカーという媒体はスポーツの専門誌ではない。横浜のグルメであったり、遊びスポットであったりを紹介する情報誌だ。ベイスターズとは“横浜つながり”というだけ。決して野球好きが買うような本ではない。なので野球選手に対しても「好きなタイプの女性」とか「仲のいいチームメイト」などの、アイドル誌のような質問が求められる。そんな中で、野球の話については、できるだけわかりやすい方法で伝えなければならない。「数字で目標を」という質問を嫌がる選手が多いのは承知している。しかし読者が聞きたいのはそういうことだし、優勝へ向けての威勢のいい言葉だったりするのだ。

この時同じタイミングで、98年の日本一の中心メンバーでもあった三浦大輔手(当時) 、前年盗塁王に輝いた梶谷隆行選手にもインタビューしていた。三浦選手は自らの経験から優勝への手応え、そのために必要なことについて言及しているし、梶谷選手はトリプルスリーを目指したいと語ってくれた。ところが筒香選手だけは「レギュラーを取るために全力プレー」となってしまう。仕方なく柔らかめの質問に切り替え、「横浜で好きなスポットは?」という質問にも、「高校の時からずっと野球一筋だったから、わかりません」という。半ば誘導するように「みなとみらい」という言葉を引き出すのが精いっぱいだった。メディア慣れしていないということもあっただろうが、取材者としては実にヤキモキしたインタビューだった。

無口な23歳が来シーズンに向けて秘めていた思いとは

2015年8月、横浜スタジアムにて(撮影=小貫正貴)

しかし同時に、一人のベイスターズファンとして、その姿勢に強く感動もしていた。まだ23歳。高校を卒業して入団5年目でようやく実績といえる成績を残したばかり。キャプテンに任命されたとはいえ、周囲のほとんどは自分より年上の選手だ。やりにくいであろうことは容易に想像できる。いくら期待しているからといって、当時の中畑監督はずいぶんと高いハードルを設定したものだと感じていた。

そんな中で浮かれることなく自分を律する姿に、これからチームをけん引していこうという覚悟を見たような気がした。2014年の好成績がたまたまだったのか。それとも完全なる覚醒なのか。それを証明するためのシーズンが2015年であることを、筒香選手が何よりも理解していたのではないだろうか。

そして2015年。筒香選手はシーズンを通して4番に座り、打率.317、24本塁打、93打点とすべてにおいて前年を上回る成績を残した。幸い横浜ウォーカーのベイスターズ特集も好評を得て、2015年の開幕直前号では、さらにページを増やしてベイスターズ特集を組むことになった。そして同年2月、1年ぶりに話を聞く機会を得た。今回は新人最多セーブ記録を塗り替え、新人王に輝いた山﨑康晃選手と梶谷選手との鼎談という形だ。

初インタビューから1年。人はこんなにも変わるものなのか

横浜ウォーカー2016年4月号より

我々の前に姿を現した筒香選手は、1年前とは打って変わって自信に満ち溢れていた。こちらの質問の意図を汲み、しっかりと目を合わせて応えてくる。梶谷選手は「ゴウが4番にいるのは心強い」と語り、山﨑選手は「試合を決定づける打撃を、何度も見てきた」と称賛する。そして筒香選手自身も先輩である梶谷選手を敬い、後輩である山﨑選手をねぎらう発言を繰り返す。そこにいるには、まさに“キャプテン筒香”だった。人は1年でこんなにも変わるものなのか。2015年シーズン、前半に首位に立ちながらも最下位に終わった悔しさ、勝利への執念についても熱く語ってくれた。ただし自身の目標については「勝利にどれだけ貢献できるかを重視。数字は後からついてくる」と、やはり数字で表現してはくれなかったが(笑)。

筒香のいない2020年のベイスターズの戦いに注目

2019年最終試合。来シーズンの開幕のスコアボードはどのようなラインナップになるのだろう(撮影=小貫正貴)

今回のメジャー挑戦のための記者会見は、個人的には4年前のインタビューを思い出させるものだった。当時に比べたら態度は堂々としていたし、話し方も自信にあふれたものだった。しかしけっして大げさな言葉は発しず、一言一言を自分の言葉で懸命に伝えようとする姿がダブるのだ。今、自分が立っている場所と状況を冷静に見極め、説明できるものだけをきちんと説明する。自らの大きな決断に、過大なリップサービスはいらない。必要なのは“覚悟”だけだ。そんな雰囲気が感じ取れた。

来年の横浜DeNAベイスターズに筒香選手はいない。ここ数年は“筒香のチーム”と言われることもあったほど、チーム内外にわたって大きな影響を与えてきた。来年どんなチームになるのか想像もつかない。しかし来シーズンを託された選手たちは「筒香がいなくなったから弱くなった」とは、絶対に言われたくないだろう。そんな奮起したチームの戦い、そして海の向こうで大暴れする筒香選手の活躍が今から楽しみでならない。

文=小貫正貴